傷痕のメッセージ
知念実希人(著)
とある事件を追っていた元刑事(水城穣)が死後に残した暗号を元に、外科医である穣の娘(千早)、千早の同級生の病理医(刀祢紫織)、28年前に穣の指導を受けた警視庁捜査一課の警部補(桜井公康)の三人が、穣の追っていた事件を解決する医療推理小説である。
この小説を読むと、病理医の仕事を知ることもできる。
「天久鷹央の推理カルテ」と「神酒クリニックで乾杯を」で、主人公たちの引き立て役であった桜井刑事の仕事ぶりも読めた。
ベテラン刑事の桜井が、事件解決のためなら、自分の半分ぐらいしか生きていない天久医師にいじめらることも厭わない、そのすごさに気付くと同時に、そんな桜井刑事が天久医師に軽んじられることに怒る成瀬刑事の気持ちもわかった気がした。
病理医を引っ張り出すためとはいえ、胃壁に暗号を残すという設定は強引かなと思いながら読み進めたが、最後まで読むと、胃壁に暗号を残した理由にも納得がいった。
紫織は29歳と思われ、この話は小鳥遊医師が外科医を辞めて総合内科医局に移った年の春ということで、おそらく「天久鷹央の推理カルテ」と同じ年の春(つまり小鳥遊先生が鷹央先生と出会う前)に起こった事件である。
初回特典の書き下ろし小説「クロスロード」によると、「改貌屋(改題 リアルフェイス)」の話が始まる直前の話のようである。